尾瀬 至仏山〜平ヶ岳 

     宮永記

日 程  2004年4月29日(木)夜〜5月3日(月)

メンバー L:杉田 坊垣 宮永

コース  鳩待峠〜オヤマ沢田代(泊) 〜至仏山〜ススヶ峰(泊)

〜白沢山〜平ヶ岳〜白沢山〜ススヶ峰(泊) 〜ススヶ峰下支尾根〜左俣〜山ノ鼻〜鳩待峠

4月30日(金) 晴れ

“山笑う”という春の季語を、最近になって知った。やわらかな緑、淡い緑、光に輝く初々しい黄緑、そしてピンクの山桜、針葉樹の深い緑・・・。冬の長い眠りから覚めた山々は、何ともフワフワとした、やさしい色合い。そして生き生きと、春の息吹が感じられる。夜行列車で朝を迎え、窓から見える山々は、とても楽しそうに笑っていた。

今から雪の中を歩くなんて思えないくらいだが、新緑の奥に、時々真っ白な残雪の山が見える。バスとタクシーを乗りついで、尾瀬の鳩待峠が近づいてくると、そこは冬枯れ木立ちの雪の中。真っ白な雪をかぶったままの山々が、まだ静かに眠っていた。

鳩待峠〜至仏山〜山ノ鼻間は、5〜6月の残雪期は植物保護のため登山禁止となる。入山規制は雪の状況で変わるらしく、今年は5月11日〜だそう。地図にひいた磁北線にコンパスを合わせ、目的方向に矢印を向ける。GPSでも位置を確認し、12時過ぎに鳩待峠を出発。

暖かいお昼を過ぎた雪は、ぬれざらめ雪。足跡と山スキーのトレースあり。今日は樹林帯の中をひたすら登る。時々振り返ると、高度が上がるにつれ後ろの山々が見えるようになってきた。黙々と登ること2時間、予定通り主稜線まで到達し、悪沢岳の北、オヤマ沢田代のあたりで幕営する。

5月1日(土) 曇りのち晴れ

今日は重荷で8時間歩くと思うと、気合いが入る。朝は雪が凍っていたので、少し歩いてアイゼンをつける。小至仏を過ぎ、至仏山頂が近づくと、西側に雪をかぶった雄大な山々が見えてきた。

「うわーっ、きれい!」 頂上からは、360°の大展望。特に稜線の西〜北側は、残雪の連なる山々が間近に見えて美しい。利根川源流を囲む山々、巻機山、中ノ岳〜越後駒ケ岳。北には真っ白な平ヶ岳、東には会津駒ケ岳、そしてまだ雪原の尾瀬ヶ原の奥に、燧ヶ岳が裾を広げるように座っている。

至仏〜平ヶ岳は、夏は藪に覆われてしまうので、雪のある時でないと歩けないルートだそうだ。

頂上から少し下ると、雪の中から針葉樹が顔を出している。どれもぐっとヘアピン状に曲がって頭を下げ、中には折れかけているのもあるのに、雪を払いのけると再びまっすぐに伸びていく樹木の生命力は、すごいなぁと感服する。下るにつれて、木々の丈はだんだん高くなる。

とうとう藪こぎだ。背丈よりも高いトドマツやシャクナゲが密集している上を、渡ったりかき分けたりして進む。雪スコがそして、ひっかかるし、アイゼンは木にささって抜けず(踏んでごめん。)、なかなか進めない。こんなところで足でもくじいたら大変と、とにかく慎重に足を運ぶ。雪面に出たのもつかの間、藪こぎ再登場。今度は長い。木の上に立って見下ろしても雪の尾根が見えない。途中でリーダーに偵察に行ってもらう。東寄りに、もう少し下ればなんとかなりそうだ。こういう時、アイゼンボッカが役に立つ。地味でしんどいトレーニングだが、怠ってはならないとしみじみ感じた。予想以上に時間と体力を消耗したが、なんとか難所を抜けた。ホッとしたとたん、今まで夢中で感じなかった荷物の重さをずっしりと感じるようになる。安全地帯に出て、アイゼンをはずす。まだまだ先は長い。

雪はしまって歩きやすい。先週降ったばかりの雪もたくさん残っていて、真っ白できれいだ。暖かい日ざしの中、雪の山々や雪原を見ながら歩くのはとても快適。途中、下山時に下れそうな支尾根をしっかりチェックしておく。やがて、なだらかで真っ白な丘のようなススヶ峰が、正面に見えてきた。今日の幕営予定地だ。もうすぐだと思ってからが長かったが、無事到着し、頂上直下の平らな場所にザックを置く。5分ほど登るとススヶ峰頂上。いきなり前方の視界が開け、思わず歓声をあげる。

「うっわーっ!」 正面には、真っ白な雪をかぶり、名前の通り平たい台地状の山頂をもつ平ヶ岳、左には真っ白な中ノ岳〜越後駒ケ岳の稜線が、至仏山頂からよりも遥かに迫って見える。振り返ると、今日歩いてきた至仏山。明日はここから平ヶ岳までピストンだ。山容をしっかり眺めておこう。ゆっくりと眺望を楽しみ、テント場に戻る。おだやかな春の陽気が心地よく、テントのそばで雪を掘って椅子をつくり、日焼けを気にしながらも外で乾杯し、食事を楽しんだ。

夕方になると山々がかすんできたが、星は少しだけ見えている。お天気を祈りつつ眠りにつく。

5月2日(日) 霧のち晴れ

目覚めると霧雨。出発時刻には雨はやんだが、霧の晴れる気配はない。視界50m。なだらかな稜線であるだけに、視界が悪いと迷いやすい。トレースはあったが、地図・コンパス・高度計・GPSで位置を確認しながら進む。稜線に出てしまえば楽だと思っていたが、思ったよりアップダウンがある。霧の中を2時間近く歩き続けた頃、すれ違った山スキーの人から、「山頂は晴れていて、越後三山も至仏もきれいに見えたよ。」という思いがけない言葉。

「えっ、本当ですか!ありがとうございます。」わーい! “上は晴れていた”“上は晴れていた”その言葉を励みに一歩一歩登る。しかし、行けども行けども霧の中。「頂上は晴れていたなんて本当かなぁ?もう見えなくなってるかも。こんなにがんばってるのに、一日中霧の中じゃ悲しいぞ。」と気弱になりかけた頃、空が心なしか明るくなってきた。最後の登りと思われる広い斜面を、黙々と半分ほど登って、ふと後ろを振り返って目を見張る。「うっわ〜っ!」私の声に驚き、みんなが振り返る。

「おぉっ・・・、すごーい!」白い霧の中、至仏山の山頂が浮かび上がってはっきりと見え、何だか幻想的。パワー倍増、がんばる! そしてしだいに青空が広がり、山頂は本当にきれいに晴れていた。 

雲海の上に、真っ白な雪をかぶった中ノ岳〜越後駒ヶ岳の山頂と、丸みを帯びた優しい感じの稜線が、青い空に映えて、とてもきれいに見える。

思えば1年半前の秋、登山を始めて間もない私は、越後駒ケ岳山頂で足を大きくガラスで切り、ヘリで運ばれるという大迷惑をかけてしまった。幸い傷は浅く、すぐに山に復帰できたが、その時、皆様に本当によくしていただき、それをきっかけに私の登山をする上での意識がずいぶんと変わった。

どこにでも危険はある。事故を未然に防げるよう、また対処できるよう、知識と技術を身につけなければならない。そして、行動を共にするメンバーのあたたかさと大切さを痛感するだけでなく、命がけで救助にあたる人、登山者の無事を祈り、陰で支える多くの多くの方々があることを忘れてはならない。

今回、大石さんが一緒でなくて残念だが、当時のメンバー杉田さん、坊垣さんと、今元気に雪山を歩き、縦走するはずだった越後駒ケ岳〜中ノ岳の稜線を眺めていると思うと感慨深い。3名とも、とても危なっかしい初心者の私を、手取り足取り温かく、今までずっと見守り続けて下さった方々でもある。

平ヶ岳山頂は360°の大パノラマ。夏は湿原になり、とても気持ちのいいところだそうだが、今はまだ真っ白な雪に覆われた、なだらかな広い雪原で、これまた綺麗で気持ちいい。真っ白な雪原から、雲の上に見える中ノ岳〜越後駒ケ岳へと白い雲が連なり、そのまま渡って行きたくなる。高い高いところにいるみたいでとっても快感! 北は奥只見方面の山々、東には特徴のある尖峰の日光白根山も見える。頂上では1時間15分も雪原を散歩して、ゆっくりと雄大な景色を堪能した。

帰りは、雲の上から顔を出した至仏山が、正面に大きく見える。自分も雲より上を歩いているなんて、不思議な感じ。まるで孫悟空みたい! 快晴もいいが、雲があると自然の思いもよらないような豊かな表情に出会え、息をのむ。高度が下がると霧の中に入ってしまうが、霧はしだいに晴れてきている。

ススヶ峰まで戻るとまた、雲海の上に顔を出した山々がとてもきれいに見えていた。昨日、快晴の中で見た景色とはまた違う。“山に登っている!”と一番実感できるのは、雲より上にいる時かもしれない。

雄大な景色と快適な雪山歩きに、とっても満足しながら、今日も外で乾杯。「お疲れ様でしたー!」 やがて日は沈み、空は長い間、赤くきれいに染まっていた。

5月3日(火) 晴れ 

朝食をすませて外に出れば、山の朝特有の、とぎ澄まされたような空気と薄いオレンジに染まる山々。あぁ・・・何て気持ちいい。山っていいなぁと思う瞬間のひとつだ。最後の眺望を惜しみながら、ススヶ峰の南の、目的の支尾根を確認しながら下る。針葉樹と針葉樹の間の、広葉樹のはえた尾根だ。枝がぐにゃぐにゃと広く張り、先が扇のように広がった木はダケカンバ。尾根は急なところもあったが、視界が良好でトレースもあったので迷わずに下れた。下まで下ると、広葉樹の種類が増える。

自然を観察しながら、いろんなことを教えてもらう。シラカバは、幹は白いけど先の枝は黒い。ブナは幹の木肌に特徴があって、グレー地に迷彩服のような模様。カラマツは冬になったら枯れるけど、松なので、良く見ると松ぼっくりが残っている。どれも「ほ〜う!」と感心することばかり。

カラマツは先のすっきりした、なんともきれいなシルエット。この広い広葉樹林は、四季折々に美しい装いを見せるのだろう。樹林帯を抜けると、尾瀬ヶ原はまだ真っ白な雪野原。どこでも好きなところを歩ける。わずかに沼地が見えているところには、水芭蕉が顔を出しはじめ、春の訪れを告げていた。 

無事に鳩待峠まで戻り、バスで尾瀬を後にする。来るときにところどころに咲いていた山桜は花の盛りを過ぎ、淡い新緑は少し鮮やかになったように感じる。

雄大な残雪の山々と広い雪原、そして雲海に浮かぶ丸みをおびた白い稜線。おだやかな春の日ざしの中で、大自然の懐に抱かれ、どこか、やわらかい優しさを感じる、心の癒される山行だった。

また山が好きになった。

<今回学んだことと反省点>

1.雪山は、2万5千分の1の地形図で、地形をしっかり読み取ること。

私が持参したのは5万分の1の地図だった。地図にしか書いてない情報もあり利点もあるが、やはり雪山は夏道を歩くのとは違う。2万5千分の1の地形図でないと支尾根や細かい地形がわかりにくい。 

2.位置の把握やルート工作は、総合判断が大切。

視界の悪いときGPSは心強いが、読み取りミスか、ずれているところがあった。地形図、コンパス、高度計、GPS、地形と歩いた時間などから総合判断することが大切。GPSが、大事なところで電池切れになったのは大失敗。幸い、坊垣さんのヘッドランプの電池が合ってよかったが、予備電池は必携! 

3.支尾根を下るのは難しい。視界は良くても、樹林帯に入ってしまえば見通しはきかない。

今回は針葉樹の間にあり広葉樹の生えている尾根ということが大きな目印になった。 

4.交通機関や現地情報の収集、ルート研究等を先輩方にお任せして、あまり下準備が出来なかったことを深く反省。自分なりに準備ができるよう、努力せねば。

行動記録