山行報告

庄司記

(1)参加者: CL 黒田(食料)、SL 庄司(記録)、江本(車輌)、手崎(装備)。

(2)山域:奈良県/大峰山(弥山川遡行/弥山・八経ヶ岳登山)

(3)目的:バリエーション・ハイキング

(4)行動記録(交通手段:自家用車1台利用、江本車)

(5)費用:1人あたり、5千円。

 

◎2004年05月21日(金)天候(曇天)(江本車:午後06時半、阪急今津駅集合)

/午後7時半、奈良県大和高田市のスーパーで買い出しと夕食。

/午後10時半、天川川合ミタライ渓谷の休憩所着。テント設営。思い思いに就寝。

 

木曜日の夜に台風が来て、登山中止を危ぶんでいたけど、強い大陸高気圧のお陰で、台風の進路が逸れ、金曜日の朝から良い天気だった。

 

今回は「名阪道」を使わず、開通間もない「南阪奈道」を使った。この行程には、最初、意外だったけど、往復とも非常な時間節約になった。大峰山系に行かれる全ての人々に、このルートを勧めます。

奈良への自動車登山は、ルート選定が重要であると、あらためて思った。奈良への山行予定者は、経験者と良く相談し、合理的なルートをキッチリ選定するべきだ。

Emさんの車のカーナビには、開通間もない「南阪奈道」が映らず、カーナビ画面上では、我々は、あたかも『役の行者』みたいに葛城の山々を空高く飛び越え、大和高田市に降り立つのであった。この辺まで来たら、吉野はすぐそこなのだ。

 

難路を歩くゆえ、軽量化のため、買い出しは控えめだったが、皆さん、個人食料を、けっこう沢山持ち込んでおられた。

谷間に囲まれたテン場の夜空は狭かったが、ダイヤの粒々のような星々がきらめき、好天が予想された。ここは、無料トイレ/駐車場(10台ほど置ける)があり、一夜のテン泊にはお勧めである。昨夜の台風の大雨の名残りで、水音が、轟々大きいのが難。

 

◎2004年05月22日(土)天候(曇天)

/午前4時半、起床。レーションと味噌汁で、簡単な朝食。

/午前6時、登山口の熊戸着、ただちに登行開始。

/午前8時、一の滝着。/午前9時15分、双門の滝着。

/午前11時、川原避難小屋着。1時間ほど大休止。

/午後2時、狼平避難小屋着。

 

リーダーKuさんは、率先して早起きされる。朝4時には起きだし、ゴソゴソと寝袋を片づけるのだ。見習わねば…。

ミタライ渓谷のテン場から熊戸まで、未舗装道路を自動車で走って15分だった。この道路の状態は悪く、崖から転落した石がゴロゴロある。道幅の広いところで、車を路肩に10台ほど駐車できるスペースがあった。

未舗装路が切れた所が登山口で、数年前まで、一時立入禁止だった名残りか、「双門滝コース/危険/立入禁止」という古い看板が掛かっている。

ヘルメットは全員持参したけど、「要らないだろう」と、車に置いていく事にした。僕のザックは、少し小さいので、ハーネスをザックから出して、遡行中は、ずっと付けたけど、ロープも含め、最後まで使わなかった。お助け紐的に、シュリンゲを、数回使った程度である。

 

登山口から、弥山川に降り、それが「白川八丁」だった。1kmほどの長い白い涸れ川原だ。下を弥山川の伏流が流れているとは思えないのだ。

白川八丁を遡行するにつれ、弥山川が、広い川原いっぱいに水面を広げ、しっかりした流れとなって、再び姿を現した。ここで、用意した沢靴に履き替える。

沢靴を持っていない僕は、水遊びにも使える運動靴を持参した。短い時間の使用だったから、これでも充分だった。

水流の浅い所を捜しながら、広い川原を、ジャブジャブと浅瀬の水を踏みながら、右に左に遡行した。ガマ滝の所で、白川八丁は終了し、そこから大きなゴルジュ帯を高巻きする道に入る。

ここで、全員登山靴に履きかえたが、Tzさんは、地下足袋とワラジ履きで通された。「沢靴よりも、足が冷たくなるが、岩にパチンとくっついて滑らない」そうだ。Tzさんが、一番楽しそうに遡行されておられた。

 

弥山川の遡行は、高巻き9割、沢歩き1割の印象を受けた。徹底的に高巻きして、危険なゴルジュ地帯から逃げていく。 

高巻きの道は、錆びた鉄廊下で繋がっている。山津波や倒木で、崩落した鉄廊下が、あちこち赤茶色に残置されている。鉄梯子や鉄廊下は、中途半端に設置されているから、岩や泥壁などの、自然の足掛かりも使って、身体全部で、登っていく。

きつい運動の筈なのに、高巻きから降りて、水辺に出るときの渓流の風景が美しく、疲れない。日射しを浴びて、キラキラ光る水と、水晶のように光る川底の石ころがきれいだった。マイナスイオンを一杯に浴び、幸せな気分で登り続けた。

 

シャクナゲや、イワカガミの花を見ながら、高度を上げていく。錆びて朽ちかけた鉄梯子で、ダイレクトに高度を稼ぐ。鉄梯子は、かるく50個くらい有ったと思う。垂直な岩壁には、錆びた鉄棒の足場がズラッと打ち込んであり、その「空中廊下」を渡る時、皆さんに、「写真撮ってあげましょう」と言われたのですが、家族には危険で見せられないので、断った。

 

一の滝や、双門の滝を見ながら、川原小屋に出る。 川原避難小屋は、小さな綺麗な木造の小屋だ。今日(土曜日)の早朝、神戸を発って、昼前に登山口に到着した場合、この小屋で宿泊できると思った。

川原小屋宿泊の場合、水場が若干問題になるだろう。弥山川の水を使いたいが、上流に狼平小屋があり、人によっては素直に飲めない感じだ。弥山川は、あちこちから沢水が流れ込んでいるから、途中の沢水をしっかり確保すれば問題ないでしょう。 

ここで、スープを飲んだり、お茶を沸かしたりして、1時間ほど食事休憩する。たいへん疲れていたので、一同、尻に根が生えてしまった。

 

全行程にわたって、目印の赤テープがシッカリ貼られており、コースを失う事はなかったけど、川原小屋から、狼平の行程が、一番きつく楽しい遡行だった。飛び石づたいに対岸に渡ることができず、いちいち裸足になって、対岸へ移動した。

この辺まで来ると、水もたいへん冷たく、1メートルの渡渉でさえ、裸足の足が痛くなったものである。きれいな水なので、濡れる事も怖くなく、不快感が全く無かった。

 

狼平の吊り橋に来たときは、遡行にも飽きてきて、安堵したものだ。

実際は、さらに此処から、もっと奥、八経ヶ岳のピークまで、川筋を遡行できるらしい。興味のある人は、御一緒にチャレンジしませんか?

狼平避難小屋は、2階建ての綺麗なログハウスだ。上流に人家もないし、弥山川の源頭なので、じかに川面に口を付けて水を飲めるのだから、素晴らしい事だ。

小屋の前のテラスに、Kuさん持参のシートを広げて、4人でお酒を頂いた。全員幸せで、素晴らしいひとときだった。僕は、お酒をたくさん飲んでしまって、うっかり寝込んでしまい、Emさんに起こされ、夕食を頂いた。

 

◎2004年05月23日(日)天候(曇天)

/午前4時半、起床。朝食。/午前6時半、弥山へ登行開始。

/午前7時20分、弥山小屋着。/午前8時、八経ヶ岳着。/午前8時半、弥山着。

/午前8時55分、弥山発、狼平へ。/午前9時25分、狼平着。

/午前9時45分、狼平発(栃尾辻/カナビキ尾根分岐)へ。

/午前11時、カナビキ尾根分岐着。/午後0時、登山口着。

/午後5時15分、阪急今津着。

 

Kuさんの起床の気配を感じて、目がさめた。外に出ると、朝靄が良い感じで、小屋の周囲を取り巻いており、Tzさんが、朝靄を見ながら、川面に、半時間以上、ずっと立ちつくしていたのが印象的だった。

小屋の周囲の泥場には、カモシカの足跡が散乱していた。夜通し啼いていたそうです。この辺、太古の原生林の様相を呈している。アニメ映画の、「もののけ姫」の、シシ神の森を想った。そういえば、日本狼の終焉の地は、ここ大峰山の狼平なのだ。

弥山川の流れで顔を洗い口をそそぎ、清流の有り難さを想った。この川を遡りながら感じたのは、太古の雰囲気を残す自然との一体感だった。弥山小屋に宿泊する人は多いだろうが、僕は、狼平避難小屋への宿泊を薦めたい。弥山は、ヤブ山なので、あまり良い印象を持っていない。

 

名残惜しい気分で、大量の朝食を摂り、狼平を後に、弥山へ登った。狼平から弥山へのピストンは、余裕をもって3時間で終わった。倒木やコケが生い茂っている原生林のような所を通過した。

八経ヶ岳は、オオヤマレンゲ保護区を抜けて通った。開花は6月下旬からなので、まだ花は咲いていなかったけど、見たかった。

余談ながら、家族に、オオヤマレンゲの話をしたら、「近所の生け垣にたくさん咲いているよ」という。驚いたのですが、園芸の世界では、ポピュラーな植物で、その場合、韓国や中国の種類か、もしくは雑種(モクレン+ホオノキ)だそうだ。

 

帰路は、栃尾辻ルートで、途中、カナビキ尾根経由で、熊戸の登山口まで戻った。この道(カナビキ尾根道)は、地形図では、正式な登山路として記載されていないけど、弥山川遡行の復路として、非常な行程短縮ができる、有り難い道である。栃尾辻ルートは、距離が長いだけで、展望も美観もないコースであり、途中でショートカットして、カナビキ尾根道を通る方が良いと思う。

カナビキ尾根の分岐を探す時、ルートファインディングの重要性を感じた。カナビキ尾根への分岐は、道標も目標物も無く、地形図をしっかり読んで、周囲の状況に注意しないと判らないと思う。もし分岐を間違えた場合、たいへん危険な事になる可能性があり、くれぐれも注意して下さい。正しい道は、熊戸の登山口まで、赤/青/黄/オレンジのいずれかの色のテープでマーキングされている筈だ。

 

(6)山行の感想。

大峰山には、「靡(なびき)」と呼ばれる行場がたくさんあり、大峰山系は、いわば靡の山である。

登山者が、普通に手軽に縦走するなら、2泊3日の行程に過ぎないけど、修験道の行者は、護摩を焚き、真言を唱え、1週間ほど時間をかけて、靡を巡行する。

むろん宗教行事だけど、自然と渾身一体になって巡行するのは、きっと法悦だろう。弥山川の遡行は、そんな感じでした。

 

Emさんの運転は、「非常な強気」で、高速道路や山道では、気の弱い僕には恐ろしいドライブだった。弥山川遡行は「危険」と聞かされていたけど、Em号でのドライブこそ、僕にとって、最大の核心部であった(笑)。これは、もちろん悪い冗談です。おかげさまで、快適な移動ができました。Emさんありがとうございました。

人生経験豊富な素晴らしいメンバーと、好天(曇ぎみだったので、一番よかった)に恵まれ、充実した山行でした。