西穂・焼岳の山行
記 呉
梅雨が明けると高山の花が咲き乱れ夏山を楽しむ季節がやって来る、通勤時間に見たJR駅のアルプスのポスターは、通るたびになんとなく旅心を誘ってくれる。ちょうどその時、神戸労山の夏山教室の終了山行で北アルプスの西穂・焼岳を訪れることになり嬉しかった。
初めての北アルプスは、岩場、鎖場、雷鳥、縦走路、火山、晴天、雷雨、夏の姿を「山ほど」見せてくれて、印象に残る山行だった。
8月6日土曜日、天気予報通りの晴天、朝早くロープウェイターミナルは登山客で賑わい、穂高山域の人気が窺える。ロープウェイを降りた地点は登山路の始まりで、西穂高まで平坦な丸山縦走路を経て、独標、ピラミッドピークいくつか岩場のアップダウンが続く。そこから旭の眩しい陽射しを浴びながら、稜線を掠れる風の中を進んだ。雲ひとつもなく晴れ渡った青い空が頭上に広がり、左手に笠ヶ岳の柔らかいシルエットが優雅に映え、青と緑と白(残雪?)のコントラストで夏の朝の楽章を奏でる。植物にハイマツが多く、山風でまっすぐに立てないが自然に順応した分で生き残り、登山道を挟んで誇らしげに登山客を迎えていた。エネルギッシュな山だなと思いながら、素直にこの自然の中に身を溶け込ませてゆき、遠く眺めながら胸いっぱいに空気を吸った。太陽のかおりが交ざっておいしかった。
独標の前から酸素を薄く感じたのか、体力が不足しペースを緩めた。先を見渡すと岩場が続いていたが、RCほど難しくなく、支点が取れそうなので躊躇せず黙々と登っていた。独標の頂上で先頭部隊と合流し、みんなの励ましの言葉をレーションとともに頂き次へ進んだ。その後の岩場は難しい箇所があったが、鎖が張られているかまたは石に白いペンキで○×が印され、動く石も多くマークされていた。知らない登山の先輩の思いやりに感謝しつつ、その足跡を踏みながら西穂高の頂上に無事に辿り着いた。午後の雲が掛かって来たため長く滞留せず帰途へ。途中雷鳥に出会い、ご褒美をもらったように興奮した。
8月7日日曜日、朝5時に西穂山荘から降りて焼岳へ、森の中にアップダウンが数回繰り返し、視野も遮られ忠実に登山道を辿るしかなかった。前日の岩と違って深い草で足元がはっきり見えず、藪漕ぎしながら行進した。その状態が二時間ほど続き、焼岳小屋辺りに到着した頃、突然目の前が広く明るくなり、小屋と右側の岩の間に奥にある焼岳が現れ、しかも小屋に近づくにつれて、ズームインのように山容がだんだん広くはっきり見えてくる。まるで焼岳に吸い込まれているように、何も考えずにそこに向かって足を運び、小屋を過ぎたところで山頂の噴煙もよく見えて、地球が生きていることをつくづく感じた。さっき通った草の茂る道と違い、ほとんど木々が無く草も少なく、地熱で植物が育たないのかと勝手に思い込んでいた。個性のある山、奇妙な風景だった。あとでそれは上高地への道であると分かり、仕方がなく焼岳へ引き返すことになったが、そこでであった風景は夏山教室のプレミアムのように思った。
登山路を経て頂上へ。噴煙の場所に近づき、硫黄の匂いとともに、コトコトと沸騰している熱湯の音もした。噴煙近くの岩が地熱で温もり、その右側を注意深く通り過ぎようやく頂上と着く。北アルプスの温泉郷で足湯に漬かろうとした夢は、噴煙、硫黄のにおい、熱湯の音の中に砕かれてしまったが、焼岳の頂上の最高の岩に登り、サミットで旅人達が最高の笑顔を咲かせた。今度の山行そのものは最高だった。
夏山教室の終了山行で終始マイペースを貫き、焼岳まで3時間30分掛かり、ガイドブックのコースタイムの4時間より早かったにもかかわらず、先輩達は終始遥かに私を超えて前を歩いていた。今回冗談で先輩のパーティを「アスリート」、自分のことを「スタンダード」と決めたが、来年アスリート入りしたいと思う。