槍穂高縦走

記 小池

7月に入り、炎天下の早朝ボッカとランニング、室内ボルダリング等のトレーニングを継続して行い、また、個人的には禁煙して今回の山行に備えた。

 上高地のバスターミナルでは大雨、協議の結果、予定を変更して横尾経由で槍ヶ岳に行くことになる。しかし、最終日に宿泊予定のアルペンホテルに立ち寄っている間に雨がやんだ。河童橋から岳沢を眺め、協議の結果が覆える。やはり予定通り岳沢から奥穂を目指すことにした。

上高地から奥穂高岳まで、雲〜雨の天気で殆ど展望はなく、特に奥穂高岳山頂は、激しい風雨となった。楽しみにしていたジャンダルムも見れず、前穂もパスするはめになった。雷に会わなかったのがせめてもの救いである。


 次の日の涸沢岳、北穂高岳、南岳、中岳、大喰岳の山頂も展望なし。途中で滝谷ドームらしきものが見れたぐらいである。残す3000m峰は槍ヶ岳のみと なった。最終日の天候に賭ける。

 その日の朝、濃霧のため視界不良。万事休すか。テントを撤収し、槍岳山荘で待機する。暫く待つと、うっすらと槍の穂先が雲間に透け

やがて天空の要塞と呼ぶに相応しい槍の全容が姿を現わす。槍頂上付近からは羽飾りのように雲がたなびく、荒々しい景色。この機会を逃さず、登頂。槍山頂からは北鎌尾根、西鎌尾根が見える。西鎌尾根方面にはブロッケン現象が見え、歓声が上がる。南方の穂高連峰も全容を現した。最後になって山神さまは我々に向かって微笑んだ。今までの苦労が報われた瞬間である。

(縦走路について)

重太郎新道の登りは、岩場や梯子が以外と沢山あった。岩場はホールドがしっかりしているため、3点確保が確実にできれば問題なく通過できる。ただ、ルートが長く傾斜が急なので下りは危険だと感じた。吊り尾根は小さな登下降が連続し、空気の薄さもあり以外ときつい。

 今回のルートの地図上における難所/危険箇所は、涸沢岳〜北穂高岳南峰の間にある鎖場、キレットにある鎖場等である。荒天により、常に濡れた岩場の登下降を余儀なくされたため、危険度はかなり増していた。しかし、ここでも3点確保が確実にできれば問題ない。難所とされている「飛騨泣」、ナイフリッジは、鎖と足場が作ってあるので、手を離さなければ大丈夫。両側がすっぱりと切れ落ちているなか、RCのように ロープによる確保がないという不安感との闘いである。ルート自体は六甲にあるRCゲレンデの方が遥かに難易度は高い。

 北穂から南岳に向かうキレット通過パーティーは我々の他に1パーティーしか会わなかった。長谷川ピークあたりで、南岳方面からのパー ティーが増えてきたため、道を譲ったりしているうちに少しコースから外れてしまった。また、恐怖のため泣きながら(嗚咽しながら)このピークをよじ登る 女性がいたが、ちゃんと北穂までいけた?

北穂の直下を下降中、および、「飛騨泣き」から「A沢のコル」の間にある岩場の下降中、トラブルが発生した。前者のトラブルは、約50センチ大の数個の落石を誘発したことである。だれもいないと思ったが、ガスの中で落石をよける人の声がする。すれ違うときに、「ラク」のコールが無かったので恐かった、と言われた。結構距離があったので、コールが聞こえなかったようだ。注意を促すコールは、パーティー全員で、かなり大声でする必要がある。

 後者のトラブルでは幸い、本当に運良く大事には至らなかったが、最悪の事態とは紙一重である。このようなトラブルは、浮き石の有無、疲労に伴う脚力低下や集中力の低下、装備の重量/容量等、種々のファクターが重なることで引き起こされる。少しでもトラブルを少なくするため、準備段階でできることは真摯な姿勢で取り組む必要がある。

(装備について)

 今回は、テントによる山中2泊を予定した縦走である。装備の総量は各メンバーで異なるが、大凡65〜80Lのザックに収納された。岩綾地帯のロング縦 走なので、装備の簡素化を達成すべく40〜50L程度に納められないものかと感じた。自宅で40Lのザックに、私物/共同装備/食料を入れてみたが、な んとか詰め込める。しかし、余裕が全くなく、装備の出し入れに時間がかかるため、ザックのサイズはある程度大きくなっても仕方がないのか。

 真夏の槍ヶ岳テント場にて、曇り〜小雨の天候でスリーシーズンのダウンシュラフ(中綿270g)の場合、寒く感じることは全くなく、むしろ暑いくらい である。テントのサイズ、人員、気温などのパラメータによって異なるが、真夏のアルプス縦走で装備の軽量化/コンパクト化が求められる場合、寝具はシュラフカバーのみとすることも検討すべきと感じた。その場合、保温性のあるシーツ、或いは、薄手の防寒着を一枚余分に持って行くことで不意の寒さに備える ことで対応できると考える。シュラフは、装備の簡素化を考える上で、ポイントとなる物品だと思われる。シュラフがなければ40〜50Lのザックで十分行 けるのでは?

 今回の主食は軽量化のためアルファ米、フリーズドライの食料を中心に計画した。特に過不足はなかった。個人的にも適量のレーションを準備することがで きた。次回は、乾麺を主食にしてみようと思う。

☆☆☆☆☆

 今回の山行では、トラブル発生時において、パーティーはどうあるべきか、パーティーの一員としてメンバーはどのように振舞うべきか、パーティーの安全 を最優先させるために何を行うべきか等、いろいろ考えさせられた山行であった。濡れた岩場を通過するトレーニングも取り入れることも必要ではないか。 また、今回の予定ルートのうち、前穂が宿題として残った。期待していた山頂からの展望、星空、モルゲンロート、アーベントロート、これらも次回に持ち 越しとなった。

 この山行計画に携わった全ての人に感謝します。

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