山行報告書
神戸勤労者山岳会
1参加者 名児耶、大石、井谷
2山域・ルート 北アルプス奥穂高岳、北穂高岳東稜
3交通手段 車
4行動記録
入山日2007年5月1日 下山日2007年5月3日
4月30日(月)曇
神戸20:00→(車)→00:00ひるがの高原PA、幕営(行動0時間)
5月1日(火)少雨
ひるがの高原PA5:00→(車)→6:00平湯温泉駐車場6:45→(バス)→7:30上高地7:30→12:00涸沢、幕営(行動4時間30分)
5月2日(水)吹雪
涸沢8:00→11:30奥穂小屋12:30→14:00涸沢、幕営(行動6時間)
5月3日(木)快晴のち少雨
涸沢6:00→11:30北穂小屋12:30→13:30涸沢14:30→18:00上高地18:30→(タクシー)→19:00平湯温泉20:00→(車)→01:00神戸(行動12時間)
5山行中の問題点・事故に繋がる要因
予定のルートで行動出来たか 予定ルートをはずれた場合はその理由
5月2日は、悪天候だったため、北穂東稜および北穂〜奥穂の縦走を変更して、ザイテングラート経由で奥穂岳往復のみとした。 また、快晴となった5月3日に北穂東稜のみ登攀し、その後下山した。
事故の繋がりそうな要因(ヒヤリハット)が発生したか 発生した場合は具体的に記す
グローブの取り扱い:
2日、吹雪の中、奥穂高岳に向かった。 その途中、名児耶がアイゼン装着時にオーバーグローブを紐で手首にかけた状態にしていたところ風に飛ばされた氷雪がグローブ内に入った。 グローブから氷雪を取り除いて登り続けたが、手袋内が濡れていたため手先が冷たくなり痛くなってきた。 傾斜が緩い所でツエルトを張り、グローブを予備のものと交換した。
パーティーで山行中の事故に繋がる要因について山行後検討したか
グローブの取り扱い:
冬季は、細心の注意でインナーグローブが濡れない工夫をしていたが、春山で気温が高いこともあり、取り扱いが雑になってしまった。 3000m級の春山では、天候が荒れると冬の厳しさがあることを常に頭にいれておく必要がある。
6感想
この冬、赤岳主稜、御嶽山で経験したことを北アルプスのバリエーションルートに繋げてみようと思った。 初めての北アルプスバリエーションなので、エスケープが取り易い北穂高東稜、北穂〜奥穂縦走のルートを選んだ。 出発前の天気予報は、あまり良さそうではなかったが、山頂近くは、雨ではなく雪になりそうであり、また2日午後からは、天候も回復しそうだったので、予定通りの日程で行くことにした。 神戸で大石さん、井谷さんと合流した後、東海北陸自動車道ひるがの高原パーキングエリア内で幕営した。 ちょっとした丘が駐車場の音と光を遮ってくれるところがあり、気持ち良く眠ることが出来た。 当初は、平湯温泉あかんだな駐車場まで行く予定であったが、深夜では駐車場内に入ることができなくなったとの情報を得て予定を変更した。 翌朝、平湯温泉からバスに乗り、上高地に入った。 せせらぎに泳ぐ岩魚に見送られながら歩き出した。 小雨粒が描く水辺の波紋が綺麗だった。 横尾までは、ほとんど雪が残っていなかったが、橋を渡り横尾谷に入ると雪がだんだんと増えてきた。 本谷橋は、板が掛かっておらず、沢に積もった雪面を渡って対岸に出た。 ところどころ沢底に集まるデブリを眺めながらひたすら登り、涸沢ヒュッテに到着するころには、雨と自分の汗でびっしょり濡れた状態だった。 ヒュッテ内で手続きを取りテントを張った。 平日であることと雨天のためか、テント数は思ったよりもずっと少なかった。 小屋で生ビールを飲み、テントで夕食を済ませた後、予報を覆して晴天になることを期待しつつシェラフに潜り込んだ。 翌朝、3時半に起床してみると、予報通り湿雪がテントをたたき続けていた。 もう少し天候の様子を見て行動計画を立てることとして再び眠りについた。 6時頃、明るくなってはいたが、まだ雪は降り続いていた。 ヒュッテで天気情報をチェックした。 寒冷前線は、既に東京の東海上を抜けていたが、日本海上の低気圧の移動速度は遅く、日本海側を中心に悪天候を長引かせていた。 北穂東稜、北穂〜奥穂縦走は、中止して、ザイテングラート尾根通しルートで奥穂高岳往復のみ行くことにした。 運が良ければ山頂あたりで天候が回復するかもしれないと考えた。 出発準備していると既に涸沢小屋のあたりを5〜6人のパーティーが先行しているのが見えた。 先行パーティーのトレースを登り、ザイテングラートの岩場が見え始めたあたりでアイゼンを装着した。 あずき沢側から岩場を迂回し、その少し上のあたりで先行パーティーを追い越した。 雪壁の傾斜がきつくなってきたため、念のためテープでチェストハーネスを作りロープを出せる状態にした。 その間、別の2人パーティーが追い越して行った。 先行していた6人パーティーは、どうやら引き返したようだ。 名児耶の指先が痛くなって来た為、傾斜が緩くなったところでツエルトを張って休憩することにした。 20分程経って、風も少々緩くなり、視界も良くなってきたので出発した。 先行パーティーのトレースは消えていた。 岩場の間に詰まった雪壁を繋いで上部に出た、暫く登ると白出のコル付近と思われる地点に着き、エンジン音が聞こえる左方向にトラバースして奥穂高小屋に到着した。 思ったよりも登り答えのあるルートだった。 奥穂高小屋は、まだ大半が雪に埋まっていた。 小屋に入り暖かいものを飲み、ストーブで濡れたものを乾かしているとこのままそこで眠ってしまいたい気分になった。 1時間程休憩した後、奥穂高岳目指して出発した。 岩場を少々登ってみたが、風雪が強く視界も悪いため諦めてそのまま同ルートを下山した。 午後2時頃テント場に到着。 夕方になると常念岳の方角から雲が無くなり始め、暗くなるころには涸沢を囲む穂高連峰が姿を現した。 翌日4時起床。 天気は快晴。 雪をまとった穂高連峰のモルゲンロートが美しかった。 トイレに行った際に昨日登ったザイテングラート左横のあずき沢の大きな雪崩跡に気が付いた。 どうも夜のうちに雪崩たようだ。 今日予定している北穂高東稜取付きへは、北穂沢を大きくトラバースしなければならず、雪の状態が心配になってきた。 良く観察してみると北穂沢向かって右側の雪面の一部に亀裂が入っていた。 また、北穂東稜は、4月後半の降雪により例年以上に雪がついているらしい。 涸沢ヒュッテの人からは、山岳ガイドの方々が口を揃えて今年の東稜は難しいと言っていたと聞いた。 せっかくの快晴になのにと思う気もちと、危険は回避すべきだと言う気持ちが混ざり合ってテント前で考え込んでいると、隣で登攀準備をした6人パーティーが出発しようとしていた。 聞いてみると、北穂に上がり奥穂への縦走を予定しているとのこと、あずき沢は良く雪崩るが、北穂沢はめったに雪崩ないとの情報も得た。 大石さん、井谷さんと相談して、取りあえず北穂沢に入り雪の状態が良いようならばせめて北穂高往復だけでもやってみることにしようと決めた。 先行パーティーのトレースを利用して登り始めると思った以上に雪が安定していることが分かった。 途中、相談の上、当初の予定通り北穂東稜に向かうことにした。 東稜が眼前に大きく迫り始めたところで先行トレースから離れ東稜最低コルに向かって右に大きくトラバースした。 ここからは、僕らでトレースをつける。 途中、雪質が変化したところは、用心のため3人離れながら進んだ。 最低コルに至る谷筋はやめて、傾斜はきついがより雪崩の危険が無さそうな尾根筋の雪壁を登った。 井谷、大石、名児耶の順でノーザイルで登る。 途中、雪面が固い箇所をフロントポインティングで登っているとふくらはぎの筋肉がパンプしそうになった。 大石さんは、アイゼンのサイドを使い、ジグザグに上手に登っていた。 雪壁を登るとその先は、ナイフエッジの雪稜となっていた。 大石さんが先行し、井谷、名児耶が続いた。 その先は、核心部の岩場であるはずであったが岩の上には複雑にうねった剃刀のような雪稜が連なっていた。 谷の向こうには、雪をまとった前穂北尾根の神々しい姿が見える。 良い景色だ。 ここでザイルを出す。 ここからは、名児耶がリードした。 1ピッチ目。 大石さんにスノーバーとピッケルで作った支点でビレイしてもらい、先ずは、雪稜の北穂沢側面を行き、途中、それを乗り越し、反対の北穂池側に出て少し下る。 途中、雪面が層状に剥がれるところがあった。 許されるならばここを無事に通過させて下さいと心の中で祈りながら通過、少々岩を登り、雪面に出たピナクルに120cmテープを掛けて支点作成した。 先ず、ロープをフィックスし、井谷さんが、ベーシックを使って移動。 その後に大石さんがフォローした。 今回は、井谷さんの発案で、8mmx50mダブルロープ1本のみ持っていった。 2本よりも雪上での取り扱いが楽でとても良かった。 2ピッチ目。 ゴジラの背の上にキノコ雪がついており、通常、北穂沢側に行くところ、雪が覆いかぶさって快適に行けそうもない。 キノコ雪の北穂池側面を行くことにする。 途中、クロムモリブデン鋼ハーケンとスノーバーでランニングビレーを取り(ハーケンは後で井谷さんが回収)、岩と雪の急斜面をクライムダウン。 ホールドに積もった雪を足とピッケルで取り除きながら、コル状になったところまで降りた。 ピッケルのブレードでピナクルを掘り出し、そこにテープをかけて支点を作成。コル北穂池側の側面に足場を固めてビレイする。 足元は、すっぱり切れ落ちていてあまり気持ちが良くない。 3ピッチ目。 コルの反対側に乗り越し、雪稜の北穂沢側をトラバースする、最後の懸垂下降地点と思われるところは、ナイフエッジになっているため、手前の少し平らになっているところでスノーバー、ピッケルで支点作成。 大石さんと井谷さんにそこまで移動してもらう。 4ピッチ目。 下降地点で雪面に打ち込んだアイスハンマーをランニングビレーとして、雪と岩の斜面をクライムダウン。 例年だと雪がついていないので、岩場の懸垂下降となるところだ。 東稜のコルに降り立つ。 大石さんと井谷さんが続いて核心部が終了した。 ザイルをしまい、大石さん、井谷さん、名児耶の順で雪稜、雪壁を登り北穂小屋に出た。 今、来た稜線を背に記念撮影、井谷さんと大石さんと握手した。 北穂小屋でおいしい昼ごはんを食べた後、北穂沢を下降して1時間程で涸沢到着(井谷さんの尻セードは速かった。)。 テントを撤収した後、3人早足で上高地に下った。 途中、もう天候が悪くなり始め、雨もぽつぽつと降り出した。 上高地からタクシーで平湯まで行き、温泉で汗を流したあと、神戸に戻った。
天気にも恵まれ、いろいろな技術を用いながら進んだ今回の登攀は、とても楽しかった。 また、吹雪のザイテングラートでも春山の厳しい一面を見ることが出来て良い経験になった。 また、今回は、メンバーがお互い自然な形で助け合うことが出来て良かったと思う。 井谷さんは、雪壁でリードしてステップを刻んだり、休憩後の出発を促したり、下山でのペースを作ってくれたりと、チームのペースキーパーの役割を果たしてくれた。 大石さんは、最初の雪稜を確実な技術で道を開き、また、素早く、確実なビレイをもって、要所でチームの不安を取り除いてくれた。 ありがとうございました。
報告者氏名 名児耶