槍ヶ岳〜奥穂高〜前穂高縦走                

記:宮永

3年前の秋、登山を始めて間もない私は、燕岳〜大天井岳〜槍ヶ岳〜南岳〜横尾〜北穂高岳〜上高地を一人で歩いた。その時は大キレットを通るのに不安があったので、南岳小屋から氷河公園を通って一旦横尾まで下り、涸沢から北穂高岳に登り返した。そして北穂高岳〜奥穂〜前穂〜岳沢へと抜ける予定だったが、台風の接近により北穂高岳から先を中止して下山したことがある。 今回その、大キレット〜北穂高岳〜奥穂〜前穂の岩稜を歩くことができ、楽しい山行となった。

8/24(金)晴れ 

早朝6:00、バスで上高地に着き、身支度を整えて7:00出発。梓川に沿って穂高連峰や明神岳を眺めながら歩く。木々の緑が美しく、空気がおいしい。横尾から槍沢へ、涼しげな水の流れが緑に映えて、沢沿いを歩いているととても気持ちがいい。途中、槍見河原から槍ヶ岳の先端が見えた。軽快な足取りの私たちであったが、槍沢は長く、樹林帯の中を延々と歩く。槍沢キャンプ場で水を補給し昼食休憩。このあたりからは樹林帯を抜けて、広い河原に沿って歩く。今日はヒュッテ大槍に泊まる予定なので、大曲で水俣乗越の方へ行くか、槍沢から行くか迷ったが、槍沢からの方がメインルートで歩きやすそうなので、このまま槍沢を進むことにした。

だんだん登りがきつくなって、天狗原分岐を過ぎ、歩いても歩いてもまだ着かない・・・と、メンバーに疲れが出はじめた頃、目の前の開けた河原の奥に突然、槍ヶ岳が大きく見えてきた。青い空に、槍の尖った雄姿、鮮やかな緑に広がるお花畑。これぞ夏山!と美しい風景に元気づけられ、がんばって歩く。坊主岩屋からはジグザグにお花畑を登り続け、16:20ヒュッテ大槍に着いた。稜線上の小屋で眺望が良く、槍ヶ岳は大迫力で迫り、穂高、燕〜大天井〜常念、遠くは富士山まで見えた。がんばってここまで歩いてきて、みんな大満足だった。

8/25(土)晴れ

4:50小屋の外で夜明けを待つ。山々の稜線が青く浮かび上がり、空の色がオレンジ、黄色、桃色、紫と、刻一刻と変わっていく。やがて槍ヶ岳の後ろの空がピンク色に染まり、空がだんだん青くなってきた。この夜明けのドラマは、山で出会う風景の中で一番好きだ。

 7:05出発。今日は槍ヶ岳に登り南岳小屋まで。お天気が良く稜線歩きなので眺望が楽しみだ。槍を大きく正面に仰ぎながら歩いて行く。槍岳山荘前に荷物を置いて頂上に登ると、360度の大パノラマで、穂高連峰、中央と南アルプス、富士山、薬師、立山、白馬方面・・・数えきれないほどたくさんの山々が見える。山岳展望図と地図を見ながらゆっくりと絶景を満喫した。 中岳からの展望も良く、今まで歩いてきた道が良く見える。ゆっくり昼食休憩をとる。南岳に着く頃には雲がわいてきて、山頂からの遠望がきかなかったのが残念。14:00南岳小屋着。

小屋はガスの中だったが、夕方になったら晴れるかも・・・と期待して、小屋からすぐの南岳山頂まで夕日を見に行く。雲の中に夕日が沈み、夕暮れが近づくにつれて、北穂高方面の山々や槍ヶ岳がきれいに見えだした。空は紅く染まり、とても美しかった。

8/26(日)晴れ

4:40南岳の山頂から夜明けを待つ。今朝は大天井〜常念岳の奥に雲海が広がり、遠くに富士山、南アルプスの山々が浮かんでいる。曙の空は鮮やかに染まりながら明けていく。雄大で素晴らしい眺めだ。こんなにも美しい朝に出会えるなんて・・・忘れられない風景の1つとなった。

6:30南岳小屋発、今日はいよいよ大キレット!今までは特に危険な所もなく、のんびり楽しく歩いてきたが、後半は岩稜歩きが多いので、ちょっぴり緊張。先頭を歩きたいという希望者がいないので、大キレットは私が先行することになった。小屋で一緒になった人から、昨年同僚が大キレットで滑落死したという話を聞いて少し気になったが、事前に北口さんから岩稜歩きのトレーニングを受け、「君らやったら大丈夫!」と言っていただいたことが心強く、自信を持って歩けた。ふり返ると南岳から続くやせ尾根の岩場、行く先には北穂高岳の絶壁に立つ北穂高小屋が、おとぎ話の要塞のように見える。足場の悪いところはあるが、ルートをよく見ながら落ち着いて歩けたので、特に怖いと思うところもなく、のんびりと休憩しながら迫力のある絶景を楽しみ、無事に北穂高岳に着いた。山頂で昼食の後は、もうひと頑張り。涸沢岳までの岩稜歩きも油断は禁物なので慎重に歩き、涸沢槍でゆっくり休憩して、14:20穂高岳山荘に着いた。夕方、涸沢岳から夕日を期待したが、残念ながらガスの中だった。

8/27(月)曇り時々晴れ

3:45穂高岳山荘発。まだ真っ暗で、満天の星空の中、奥穂高岳からのご来光が見たくて、ヘッドランプをつけて歩き始める。暗いのでどんなところを歩いているかよくわからないが、山荘から奥穂高岳までの道は比較的整備されているように思う。しかし、朝一番からかなりの急登。ヘッドランプでペンキのマークを探しながら登ること1時間、頂上に着いて日の出を待つ。残念ながらガスがかかっていたが、昇ってきた太陽が霧の中に浮かび上がり、前穂方面の山並みが墨絵のように幻想的に見えて、また違った雰囲気の美しい朝を迎えることができた。

5:30奥穂高岳発。幻想的な風景を楽しみながら、前穂へと向かう。紀美子平で荷物を置いて頂上に登る。ここも岩稜歩きで油断は禁物、慎重に登る。頂上に着いてしばらくすると、雲の合間から槍ヶ岳が顔を出し、涸沢槍〜奥穂高岳と、今まで歩いてきた稜線が見えた。こんなに歩いてきたなんて、ゆっくりの一歩一歩でも、人の足ってすごいなぁ!と、いつもながら感心する。しばらく眺望を楽しみ、岳沢へと下り、12:30上高地に無事下山した。

天候に恵まれたおかげで、素晴らしい眺望と岩稜歩きを満喫できて、充実した山行となった。雄大な山々の風景、移り変わる空の色や雲の形、清楚な草花・・・きれいだなと思う瞬間を大切にして、足を止めて、自然を、空気を、肌で感じるのが大好き!そんな感覚がメンバー全員一致しているので、ゆっくりと自然に向き合い、心おきなく楽しむことができて良かった。