山行報告書

神戸勤労者山岳会

 

1.参加者

                            大石、中原

2.山域・ルート

                            北アルプス 明神岳東稜

3.交通手段  

                     

4.行動記録

 <入山日2009年 5月 1日、 下山日2009年 5月 3日>

第1日  神戸21:002:00平湯キャンプ場(泊)

 第2日  平湯キャンプ場―平湯―上高地7:408:20明神10:20宮川ノコル−11:30ひょうたん池(泊)

 第3日  ひょうたん池4:407:30バットレス基部−8:30明神岳9:30奥明神沢ノコル−10:30前穂高岳−奥明神沢ノコル13:00岳沢−15:30上高地−平湯−  往路を帰神

 

 5.山行中の問題点・事故に繋がる要因

a)予定のルート・日程で行動出来たか 予定ルートをはずれた場合あるいは日程が異なった場合はその理由

 計画では第一日目の泊地を東稜ラクダのコルに予定していたが、ひょうたん池に到着した時点で数パーティが先行していた為、狭いラクダのコルでテントサイトが確保できないと判断、ひょうたん池を泊地とした。

 

b)事故に繋がりそうな要因(ヒヤリハット)が発生したか 発生した場合は具体的に記す

  特になし

 

c)パーティで山行中の事故に繋がる要因について山行後検討したか 

  反省会実施。

 

6.その他ルートに関する情報・気がついた事など

 明神岳は穂高の山群の中にあって訪れる人の少ない自分たちだけの山行が出来る山である。
今回トレースした東稜は明神岳頂上へ続く、上部にバットレスと呼ばれる岩壁をもつクラシックルートで、天候に恵まれ計画通りの行程で登ることができた。
宮川のコルからひょうたん池までのトラバースはデブリの中を登って行く。
天候が安定していたので問題はなかったが、雨やガスの中では最初の核心部になるピッチだ。

ひょうたん池はこの時期は雪の下になっているが、絶好のテントサイトだ。東稜をはさんで北側には茶臼尾根が白く緩やかに続き、上部には一転して天を突き刺すような三本槍が聳えている。
南側には明神岳東面の各岩場が下宮川谷に黒い塊となって切れ落ちており、取り分け
5峰東壁の圧倒的なスケールが息をのむ迫力で迫ってくる。

バットレスは約20mの凹角で、スタンスに乏しく全装備を担いだ登攀では少し苦労する。

そして最後の雪壁を登り切ると、いきなり前穂高から奥穂、西穂へ続く穂高の主稜線が飛び込んでくる誰もいない頂上が待っている。

今回は前穂高岳までトレースして岳沢に下降したが、更にルートを伸ばすことで一層充実した山行が出来るだろう。

全装備を担いで雪と岩のルートを辿る、アルパインクライミングの喜びを知ることのできるルートだ。

 

報告者氏名  中原  2009年 5月 7日 







明神岳東稜 2009.5.2-3

大石貴子


昨年の春合宿に計画した明神岳東稜だったが、天候に恵まれず、ひょうたん池までで敗退した。
今回は、予報ではお天気はまずまず大丈夫そうだったので、「今年こそ!」と再度のチャレンジだった。

【5月2日】 

昨夜21:00に神戸を出発。平湯のキャンプ場で仮眠し、5時半起床。
春合宿で同じ穂高に入る高松パーティーはすでにテントを撤収し出発していた。あかんだな駐車場で身支度をする。
06:20 バスに乗り込んだ。すると高松パーティーもそのバスに乗っていて、上高地まで御一緒する。
07:40 上高地で3人とは別れ、出発する。もうすぐ明神館かと思っていると明神東稜のラインが現れてきた。
08:20 明神館着。明神橋を渡り、養魚場を超え小川を渡り下宮川谷へ入っていく。
私たちの前後に3人パーティーが2パーティーあり、さらに登っていくともう1パーティーに出会った。
このルートはあまり人が入っていないのかと思っていたが、GWのこの時期はやはりそうはいかないようだった。
下宮川谷の下部はほとんど積雪が無く、登りにくいガラガラをずーっと登っていかなくてはならなかった。
30分ほど行くと右側の支流に入り宮川のコルを目指す。宮川のコルが見えだすとさらに別パーティーの姿を確認する。

10:20 コルに乗るとさらに何パーティーかが上宮川谷をトラバースしひょうたん池への急斜面を登るのが確認できた。
いったい何パーティーが明神岳東稜に取り付いているんだろう。
コルからの行く手はようやく雪面の世界になった。上宮川谷のトラバースはまだ新しいデブリの上を行く。
昨年は沢のトラバースが気味悪かったが、今年は谷自体には雪は少なく上部からの雪崩の心配はなさそうである。
コルからひょうたん池までは近いように見えるがしっかり1時間は掛かった。
すでに1パーティーがラクダのコルへ向かっている姿が稜線に見える。

11:25 ひょうたん池着。
テントが1張り張ってある。ひょうたん池を過ぎると急な雪稜、岩場のルートになる。
すでに着いていた別の3-4パーティーが登攀具を着け準備していた。
狭いラクダのコルに、先行して行った何パーティーかと、これから出発しようとしているこれらの数パーティーがテントを張るのは困難だろう。
下部の岩場でザイルを出し、越えるのに結構時間が掛かっている。あのあとに付いていたら、明るいうちにコルに着けるかわからない。
まだ、時間は早かったが、ひょうたん池で幕営することとする。
時間はたっぷりあったのできれいに整地し、風除けのブロックを積んでテント設営をした。
中原さんは取り付かれたようにトイレ作りに勤しんでいた。
そうしているうちにも次から次と他のパーティーがひょうたん池に集合し、7パーティーが幕営することとなる。
隣のテントは賑やかな名古屋弁(?)の5人のパーティーで、テントの中に落ち着きアルコールが入ってくると、どんどん声がでかくなっていった。
でも、大勢のパーティーならワイワイ楽しいだろうから仕方が無いか…。
私たちは昼寝をしたり、ラクダのコルに向かうパーティーを観察したり、周囲の山々をボーっと眺めたりして過ごす。
雪の上だけど、テントに入っていると強い日差しで暑いくらいだった。

16:00 夕食 

19:30 就寝 ちょっと早いけど…。翌朝の早起きのために早寝する。

【5月3日】

03:00 起床 他のテントもゴソゴソ起きだしたようだった。

04:45 登攀具、アイゼンをつけて出発する。3パーティーが先に出発したようだった。
第一階段と呼ばれる岩場は全く雪が付いていなかった。
ザイルが無くても行けそうだったが、急いでも先行パーティーがつっかえているので、私たちもザイルを出すことにする。
中原さんがリードし20mほど登り、ブッシュで支点を取りセカンドの私を確保。
支点で交替し先に行く。岩稜を超えると雪壁になり、中原さんが、「ロープが要らなさそうなら言うてー。」と下から声が掛かる。
数メートル登るが、雪は安定しており大丈夫そうだったので、「ロープ無くても行けそう。」とコールする。
安定したところでロープを回収し、急な雪壁をハアハア言いながら上っていく。

06:45 雪壁を登り切ると、ルート核心部のバットレスを登るパーティーが小さく見える。
昨日、ラクダのコルに幕営したパーティーたちだ。岩の上部、下部に数名の姿がある。
後ろを振り返るとひょうたん池の幕営地が小さく見える。

07:15 なだらかになった雪稜を行き、小ピークを超えるとラクダのコルに到着する。
昨日コルへ向かったはずのパーティーがまだそこでハーネスをつけたりして準備している。
そのパーティーを追い越すか迷っていると、「行くで!」と、後ろから声が掛かる。バットレスの取り付きには3人パーティー。
バットレスには単独行が取り付いていた。右側の凹角沿いがルート。
単独行の方は、ザックをアンカーに登っていき、ザイルをFIXして、また下降して登り返していた。
取り付きに居た3人パーティーは未だ準備が出来ていなかったので、「先にどうぞ。」と、順番を譲ってくださった。

07:30 中原さんは、単独行の方の後ろに危険じゃない程度の間隔でピタッと付いて登っていく。
私の確保しているところからは死角になるが、単独行の方のアイゼンが岩面をギギィとすべる音が聞こえる。
グレードはV+〜W-位で、いくつかの記録にスタンスは結構細かくていやらしいと書いてあったが、大変そう…。
コールがあり登り始めるがやはり細かくて荷物を背負って登るのは私には厳しかった。
後ろには何パーティーも待っておられるので、時間も掛けられず、『ここは何でもありのガシガシ登りだ!』と、ヌンチャクを掴むは、残置シュリンゲに乗るは…で、何とか超えた。バットレスを超えるとあとは急な雪壁を登り、

08:15 明神岳頂上着。360度の景色。前穂高岳がくっきり見え、雪壁を登る数人が蟻ンコのようだ。
『岳沢〜前穂高岳の高松パーティーは岳沢のテン場を5時に出発すると言っていたので、私たちが前穂高岳を登るときにはもう下山に掛かっていて出会えないか。』
ここでやっとミニ大福を一個口にし、少しエネルギーを補給して出発する。稜線は雪が少なく岩がむき出しだった。
岩稜帯を慎重にクライムダウンする。最後、奥明神沢のコルへの下降20m1ピッチを懸垂した。
奥明神沢を登ってくる登山者が居るので、落石させないようヒヤヒヤしながら慎重に下った。

09:15 奥明神沢のコル着。計画ではここから前穂高岳までのピストンの予定だが、見えるピークへの雪壁がキツそう。
「どうしますー?」と、お互いに牽制していたかも。
でも時間も早いし、島田さんとの無線で高松パーティーが未だ前穂のピークの手前にいる事がわかり、私たちも前穂に向かうことにする。

09:30 出発。雪壁に出るまではほとんど雪が無く、アイゼンがキーキー悲鳴を上げているので、アイゼンを外して岩稜帯を行く。
岳沢側をトラバースしているときに、ピークから下山してきた高松さん、大川さん、島田さんらしき3人パーティーの姿を発見。
中原さんが大声で呼ぶと、手を振って返してくれた。
岩稜を登り、3人のところに急ぐ。ところが、ピークにつづく雪壁に出で3人の姿をキョロキョロ探すが、いない。
すでに雪渓を下降して行ってしまったようで会えず、ちょっと寂しかった。
「頂上直下の雪壁は、空荷でもアゴ出るよ。」と、コルで出会ったパーティーに言われていたが、ホントしんどかった。

10:40 前穂高岳着。2度目の360度の景色である。
ツンと澄ましたような槍ヶ岳、北穂高岳、奥穂高岳の堂々とした姿、そこからジャンダルム、天狗の頭、西穂高岳へと続く稜線が迫力だった。
常念岳の美しい姿、遠く御岳山も綺麗にその姿を見せていた。『ここまで来て良かった。』すばらしい景色をゆっくり楽しみ、下山に掛かる。



バットレスの登攀   頂上直下の雪壁



12:10 奥明神沢のコルから岳沢に下降開始。思った以上にこの下りが長く感じ、しんどかった。

13:00 岳沢着。高松パーティーのテントを見つける。
ヨレヨレっとなっている私たちに、島田さんがアイスぜんざいをご馳走して下さった。美味しくて、生き返る心地がした。

13:30 翌日、西穂高岳に登る高松パーティーとは別れて、私たちは上高地まで下山する。

15:30 上高地着。


今回のルートは、フル装備担いで急な雪壁、岩稜を超えなければならなかったので不安だったが、何とかやり遂げることが出来、嬉しかった。
今シーズンはお天気にも恵まれ、西穂西尾根、涸沢岳西尾根、明神岳東稜と穂高のルートをトレースすることが出来、大満足している。