笈ヶ岳
北口記
山行1週間前は4月中旬の陽気で雨も降っていた。山の雪は溶けザラメ状に変化しているはずだ。その上に、出発の3日前から天候は冬型に変わり山では降雪となっている。笈ヶ岳周辺のスキー場でも約50cmの降雪が記録されている。ザラメ雪の弱層の上に新雪が積もるという最悪の条件での山行を予想し、雪崩の回避を最優先にして行動すると決め出発した。
3/18 6時過ぎに山毛欅尾山枝尾根に取り付く。雪が所々はげ落ちている急斜面を適当にルートを探り主稜線上に出る。そこから山毛欅尾山までもかなりきつい傾斜を登り続ける。急傾斜では雪が弱層を形成しているため足場が決まらず、滑落しないよう気を引き締めて登る。このころから天候も悪化し雪が降り始め、かなり強い風も吹き出す。横殴りの風があられ状の雪を顔をたたきつける。12時近くに山毛欅尾山に到着した。ここからアップダウンはあるものの、冬瓜山の取り付きまではそれほど体力を消耗する事は無いだろうと思われた。本日のテントサイトは冬瓜山の取り付きと決めていた。しかし雪質やメンバーの体調不良などで距離を稼げず1271mピーク付近をテントサイトにした。この時点で大笠山までの縦走は無理と判断し笈ヶ岳のピストンに変更した。
3/19 天候は回復し絶好の登攀日和となった。しかし雪の状態は相変わらず悪く、クラストした新雪がザラメ雪の上に乗っている状態である。雪崩れ誘発に最新の注意をはらいながら慎重にルートを選んで冬瓜山を目指した。急傾斜をいくどかこなすと、突然目の前に雪が着いた50-60度の壁が現れた。雪の状態は悪いが、立木の枝やらでホールドやスタンスは軽く取れると考えロープを出し突破することにした。しかしその抜け口が雪でオーバーハングになっいる。しかもその雪がざくざくでピッケルの支点が利かず乗り越すのに一苦労した。後はナイフリッジを越せば安全地帯だと考え先に進む。しかし今年の大雪のせいだろう、ナイフリッジが予想を遙かに超えてそそり立ち、雪庇の張り出し部分とナイフリッジの境が全く解らない。雪庇をさけて深く切れたナイフリッジの斜面に乗ると、この雪質では雪崩れる事は必至だと考えた。またリッジの上に馬乗りになって通過する事も考えたが、雪庇が崩壊する可能性が大きい。この絶壁で滑落すれば確保者をも巻き込む事は必至である。非常に無念であるが登攀をあきらめ撤退することにした。
笈ヶ岳も大笠山もまことに良い姿をした山である。姿ばかりでなくその複雑な地形が登りがいを与えている。このような山を自分たちだけでトレースする喜びは大きい。ましてや頂上を踏めればなおさらである。近い将来必ずこれらの山の頂上に立とうと心の中でつぶやいて下山にかかった。